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掲載誌:用地ジャーナル2018/02  判例研究【3】

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平成22年6月1日/最高裁判所第三小法廷/判決/平成21年(受)17号

判例ID28161473
事件名/損害賠償請求、民訴法260条2項の申立て事件
裁判結果:破棄自判 /上訴等:確定 /



最高裁判所第三小法廷 平成21年(受)第17号 平成22年06月01日 主文
1 原判決中、上告人敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき、被上告人の控訴を棄却する。
3 被上告人は、上告人に対し、4億5962万1587円及びこれに対する平成20年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 控訴費用、上告費用及び前項の裁判に関する費用は、被上告人の負担とする。
理由
 第1 上告代理人小澤英明ほかの上告受理申立て理由第2及び第3について
 1 本件は、上告人との間で売買契約を締結して土地を買い受けた被上告人が、上告人に対し、上記土地の土壌に、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして上記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことから、このことが民法570条にいう瑕疵に当たると主張して、瑕疵担保による損害賠償を求める事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
 (1) 被上告人は、平成3年3月15日、上告人から、第1審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を買い受けた(以下、この契約を「本件売買契約」という。)。本件土地の土壌には、本件売買契約締結当時からふっ素が含まれていたが、その当時、土壌に含まれるふっ素については、法令に基づく規制の対象となっていなかったし、取引観念上も、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、被上告人の担当者もそのような認識を有していなかった。
 (2) 平成13年3月28日、環境基本法16条1項に基づき、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として定められた平成3年8月環境庁告示第46号(土壌の汚染に係る環境基準について)の改正により、土壌に含まれるふっ素についての環境基準が新たに告示された。
 平成15年2月15日、土壌汚染対策法及び土壌汚染対策法施行令が施行された。同法2条1項は、「特定有害物質」とは、鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう旨を定めるところ、ふっ素及びその化合物は、同令1条21号において、同法2条1項に規定する特定有害物質と定められ、上記特定有害物質については、同法(平成21年法律第23号による改正前のもの)5条1項所定の環境省令で定める基準として、土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)18条別表第2及び第3において、土壌に水を加えた場合に溶出する量に関する基準値(以下「溶出量基準値」という。)及び土壌に含まれる量に関する基準値(以下「含有量基準値」という。)が定められた。そして、土壌汚染対策法の施行に伴い、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号)115条2項に基づき、汚染土壌処理基準として定められた都民の健康と安全を確保する環境に関する条例施行規則(平成13年東京都規則第34号)56条及び別表第12が改正され、同条例2条12号に規定された有害物質であるふっ素及びその化合物に係る汚染土壌処理基準として上記と同一の溶出量基準値及び含有量基準値が定められた。
 (3) 本件土地につき、上記条例117条2項に基づく土壌の汚染状況の調査が行われた結果、平成17年11月2日ころ、その土壌に上記の溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていることが判明した。
 3 原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判断して、被上告人の請求を一部認容した。
 居住その他の土地の通常の利用を目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に、人の健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは、上記土地が通常備えるべき品質、性能に当たるというべきであるから、売買契約の目的物である土地の土壌に含まれていた物質が、売買契約締結当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが、その後、有害であると社会的に認識されたため、新たに法令に基づく規制の対象となった場合であっても、当該物質が上記の限度を超えて上記土地の土壌に含まれていたことは、民法570条にいう瑕疵に当たると解するのが相当である。したがって、本件土地の土壌にふっ素が上記の限度を超えて含まれていたことは、上記瑕疵に当たるというべきである。
 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、ふっ素が含まれていないことや、本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである
 5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、被上告人の請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。
 第2 上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てについて
 上告人が上記申立ての理由として主張する事実関係は、別紙「仮執行の原状回復及び損害賠償を命ずる裁判の申立書」(写し)記載のとおりであり、被上告人は、これを争わない。上記事実関係によれば、上告人は、平成20年11月26日、被上告人に対し、原判決に付された仮執行の宣言に基づき4億5962万1587円を給付したものというべきである。そして、原判決中上告人敗訴部分が破棄を免れないことは前記説示のとおりであるから、原判決に付された仮執行の宣言はその効力を失うことになる。そうすると、被上告人に対し、4億5962万1587円及びこれに対する給付の日の翌日である平成20年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の申立ては、正当として認容すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)

東京高等裁判所 平成19年(ネ)第4169号 平成20年09月25日

1
売買契約の目的物である土地に含まれていた物質(ふっ素)が、当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが、売買契約後に有害であると社会的に認知された場合に、瑕疵が認められた事例。

2
第一審で自ら否定した主張を控訴審で提出した場合であっても、それが法的構成の誤りを正したにすぎないものであるときは、時機に後れた攻撃防御方法の提出には当たらない。

  東京高等裁判所
平成19年(ネ)第4169号 平成20年09月25日 控訴人(原告) 足立区土地開発公社
同代表者理事 角田公
同訴訟代理人弁護士 荒木孝壬
同 梶山正三
被控訴人(被告) AGCセイミケミカル株式会社
同代表者代表取締役 安藤豊
同訴訟代理人弁護士 小澤英明
同 矢嶋雅子
同 河端雄太郎
同 渡邊典和
同(復代理人) 齋藤梓
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、4億4893万2750円並びにうち2368万2750円に対する平成18年11月5日から、及びうち4億2525万円に対する平成20年7月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを100分し、その3を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
3 この判決は、第1項の(1)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
 (1) 被控訴人は、控訴人に対し、4億6095万5250円及びこれに対する平成18年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (2) 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。
 (3) 仮執行の宣言
2 被控訴人
 (1) 本件控訴を棄却する。
 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、被控訴人から土地を買い受けたが、当該土地の土壌が有害物質により汚染されていたため、その後施行された東京都条例の規制に従い、汚染拡散防止措置を行わなければならなくなったと主張して、被控訴人に対し、民法570条の瑕疵担保責任に基づき、損害賠償として同措置に要する費用等相当額合計4億6095万5250円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成18年11月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、控訴人の請求を棄却した。これを不服とする控訴人が控訴を提起した。控訴人は、当審において、本件売買契約締結当時本件土地の土壌がふっ素で汚染されていたことが本件土地の隠れた瑕疵であるというべきであるとし、この瑕疵が上記東京都条例の制定、施行により顕現化された旨の主張をするところ、被控訴人は、控訴人の上記主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たるとし、民事訴訟法157条に基づく却下の決定を求める旨の申立てをした。
 控訴人は、当審において、請求額を12億3375万5250円に拡張する旨の「請求の趣旨増額の申立」と題する書面を提出したが、口頭弁論期日において同書面を陳述せずに、本件訴えのうち上記のとおり拡張した請求に係る部分を取り下げ、取下げ後の控訴人の本件請求が請求額12億3375万5250円の一部請求であることを明示した。
2 争いのない事実等は、原判決「事実及び理由」欄中の「第2 事案の概要」の1(原判決2頁4行目から4頁18行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。当事者の主張は、主文が正当であることを示すのに必要な主張を摘示する(民事訴訟法253条2項)の限度で、次の3から6までのとおり請求の原因、請求の原因に対する認否、抗弁、抗弁に対する認否を摘示する。
3 控訴人の請求の原因
 (1) 本件売買契約の締結
 控訴人は、平成3年3月15日、被控訴人との間で、代金23億3572万6120円で原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を被控訴人から買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
 (2) 本件土地の土壌中のふっ素の存在及びその有害性の認識
 本件売買契約締結当時、客観的には、目的物である本件土地の土壌中にふっ素が含まれていたが、当時の取引観念上は土壌中にふっ素が含まれていることが有害であるとは認識されておらず、控訴人の担当者もふっ素が有害であると認識していなかった。
 (3) 本件都条例の施行
 東京都は、平成12年12月22日、東京都公害防止条例の全部を改正し、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号)と題名を改めてこの条例(以下「本件都条例」という。)を公布し、平成13年4月1日本件都条例を施行した。本件都条例117条は、原判決別紙条文目録記載のとおり、土地の改変時における改変者の義務について規定するところ、同年10月1日に施行された。
 本件都条例2条12号は、「有害物質」の意義について、「人の健康に障害を及ぼす物質のうち水質又は土壌を汚染する原因となる物質で、別表第4に掲げるものをいう。」と定義し、別表第4には、鉛、砒素、カドミウム、ふっ素及びポリ塩化ビフェニル(以下「PCB」という。)等を含む26種類の有害物質が掲げられている。
 (4) 土壌中のふっ素の存在の有害性の認識
 本件売買契約後、土壌中のふっ素の存在が有害であると社会的に認識され、当該物質を土壌を汚染するものとしてこれを規制する法規が制定されるに至った。
 (5) 本件土地の土壌汚染調査による土壌中のふっ素の存在の判明
 平成17年11月2日ころ、本件土地について土壌汚染調査が行われた結果、本件売買契約の目的物である本件土地の土壌中にふっ素が人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことが判明した。
 (6) 本件土地の隠れた瑕疵
 本件売買契約締結当時本件土地の土壌がふっ素で汚染されていたことは、本件土地の隠れた瑕疵に当たる。
 (7) 控訴人の受けた損害
  ア 控訴人は、本件土地につき土壌汚染対策工事請負契約を締結するに先立ち、平成17年8月4日、本件都条例117条1項に基づき、本件土地における過去の有害物質の取扱事業場の設置状況等規則所定の事項について調査するため、清水建設株式会社との間で契約金額5万2500円で委託契約を締結し、清水建設株式会社に本件土地の土壌汚染調査に係る地歴等調査を行わせ、同年10月19日、同社に対し、上記5万2500円を支払った。
  イ 控訴人は、その結果を受け、本件都条例117条2項に基づき、東京都知事に対し、本件土地の土壌の汚染状況を調査し、その結果を報告するため、帝人エコ・サイエンス株式会社との間で、平成17年9月27日付けで契約金額945万円で、新田1丁目、日暮里・舎人線関連用地土壌汚染調査委託契約を締結し、同年10月4日付けで上記原契約の変更契約を締結すると共に、契約金額を252万円とする追加調査委託契約を締結した。
 控訴人は、平成17年12月22日、同社に対し、費用及び報酬として合計1197万円を支払った。
  ウ 上記調査の結果、地下5mの地点でも汚染が確認され、更に深い深度でのボーリング調査を行って汚染深度を把握する必要が生じたため、控訴人は、同年11月3日、帝人エコ・サイエンス株式会社との間で、契約金額1869万円で土壌汚染調査の追加調査を行うことを委託する委託契約を締結し、平成18年3月31日、同社との間で、契約金額を1848万5250円に変更することなどを内容とする変更契約を締結し、同社に本件土地について土壌汚染の追加調査を行わせ、同年6月15日、同社に対し、費用及び報酬として1848万5250円を支払った。
  エ 以上により、控訴人は、本件土地について土壌汚染対策工事を実施する必要が生じ、まず、平成18年9月8日、パシフィックコンサルタンツ株式会社との間で、契約金額519万7500円で上記対策工事発注仕様書の作成業務を委託する旨の委託契約を締結し、同社に上記工事の見積りをさせ、平成18年11月5日以前に、同社に対し上記契約金額を支払った。
  オ 控訴人は、本件土地について土壌汚染の除去等の拡散防止措置を実施するために、平成18年12月26日、清水・竹内・太和建設共同企業体代表者清水建設株式会社との間で、契約金額4億2525万円で、新田1丁目、日暮里・舎人線関連用地の土壌汚染対策工事請負契約を締結し、同額の債務を負担した。
 (8) 一部請求である旨の明示
 その後、本件土地の土壌汚染対策工事は設計変更及び工事代金増額を余儀なくされた。その結果、控訴人は、本件土地の隠れた瑕疵により、総額12億3375万5250円の損害を受けた。控訴人は、本件訴訟においては、上記12億3375万5250円のうち4億6095万5250円の限度で損害賠償請求をする。
 (9) よって、控訴人は、被控訴人に対し、民法570条に基づき、上記12億3375万5250円のうち4億6095万5250円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成18年11月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 請求の原因に対する認否
 (1) 請求の原因(1)(本件売買契約の締結)の事実は認める。
 (2) 同(2)(本件土地の土壌中のふっ素の存在及びその有害性の認識)の事実のうち、本件売買契約締結当時の取引観念上は土壌中にふっ素が含まれていることが有害であると認識されていなかったことは認める。本件売買契約締結当時目的物である本件土地の土壌中に客観的にはふっ素が含まれていたこと、控訴人の担当者もふっ素が有害であると認識していなかったことは不知。
 (3) 同(3)(本件都条例の施行)の事実は認める。
 (4) 同(4)(土壌中のふっ素の存在の有害性の認識)のうち本件売買契約後、土壌中のふっ素の存在が土壌を汚染するものとしてこれを規制する法規が制定されるに至ったことは認め、その余の事実は不知。
 (5) 同(5)(本件土地の土壌汚染調査による土壌中のふっ素の存在の判明)の事実は不知。
 (6) 同(6)(本件土地の隠れた瑕疵)は争う。民法570条にいう隠れた瑕疵とは、売買の目的物が通常有すべき性能、品質を欠いていた場合又は契約当事者が契約上予定していた性質を欠いていた場合をいい、瑕疵の有無の判断に当たっては、売買契約締結当時の知見、法令等を基礎として判断すべきである。ふっ素については、その濃度によっては人の健康に被害を及ぼすおそれがあるという知見に基づき、「土壌の汚染に係る環境基準について」(平成3年8月23日環境庁告示第46号)が改正されて基準が定められるに至ったが、それは平成13年3月28日のことであり、本件売買契約締結から約10年を経過した時点である。本件売買契約締結から約10年を経過した時点ではじめて確立された知見を基に本件売買契約締結時における取引社会の認識を議論することは不合理である。本件土地の土壌内にふっ素が存在しているとしても、本件売買契約締結時において、〈1〉土壌内のふっ素について何らの法的規制は存在せず、(2)土壌内のふっ素が人の健康上有害であるとの社会一般の認識もなく、〈3〉本件売買契約の当事者間において、土壌内のふっ素が本件土地の経済的効用及び交換価値を低下させる要因として認識されることはなかったことから、本件売買契約締結時において本件土地が通常有すべき品質、性能を備えていたことは明らかである。控訴人は、本件土地の土壌内から検出されたふっ素につき、本件売買契約締結当時に法的規制はなくとも、取引社会において、法的規制の有無にかかわらず、その存在ゆえに土地取引を断念するのが常であったことや、土地の売買価格に影響をもたらすことが常であったことなどの事実を主張立証しなければ、本件土地に隠れた瑕疵が存在したことを主張立証したことにならない。
 (7) 同(7)(控訴人の受けた損害)の事実は不知。主張は争う。
 (8) 同(8)(一部請求である旨の明示)の事実は不知。主張は争う。
 (9) 同(9)は争う。
5 抗弁
 (1) 本件土地の引渡し
 被控訴人は、平成4年4月2日、控訴人に対し、本件売買契約に基づき、目的物である本件土地を引き渡した。
 (2) 本件土地の引渡しの日から10年間の経過
 上記引渡しの日から10年後である平成14年4月2日は既に経過した。
 (3) 時効の援用
 被控訴人は、上記消滅時効を援用する。
6 抗弁に対する認否
 (1) 抗弁(1)(本件土地の引渡し)の事実は認める。しかし、消滅時効の進行は、権利の性質上その行使を現実に期待できる状態になければ進行しないとされているところ、控訴人が、被控訴人から本件売買契約に基づく本件土地の引渡しを受けたときには、本件損害賠償請求権はいまだ発生していなかったから、本件土地の引渡時から消滅時効が進行するということはできない。本件損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、本件都条例によって本件土地の瑕疵が顕現化された時点、すなわち、本件土地について新たな負担が付された時点又はその負担を原告が実行した時点と解すべきである。
 (2) 同(2)(本件土地の引渡しの日から10年間の経過)の事実は認める。
 (3) したがって、本件損害賠償請求権は、時効消滅していない。
第3 当裁判所の判断
1 被控訴人の民事訴訟法157条に基づく時機に後れた攻撃防御方法の却下の決定を求める申立てについて
 控訴人は、当審において、本件売買契約締結当時本件土地の土壌がふっ素で汚染されていたことが本件土地の隠れた瑕疵であるというべきであり、この瑕疵が本件都条例の制定、施行により顕現化された旨の主張をするところ、被控訴人は、控訴人の上記主張が時機に送れた攻撃防御方法に当たるとし、民事訴訟法157条に基づく却下の決定を求める旨の申立てをしたので、まず、この申立てについて判断する。
 控訴人は、原審において、(1)本件売買契約締結当時、控訴人は、本件土地がふっ素等で汚染されていたことを知らなかったとし、その後本件都条例が施行され、本件土地の土壌汚染調査を実施したところ、本件土地の土壌は、ふっ素等の有害物質により、本件都条例で定められた土壌汚染処理基準を遙かに超えて汚染されていることが明らかになったとし、本件都条例により、控訴人が本件土地を公園として使用することは本件土地の改変となり、これに伴う汚染拡散防止措置を必要とすることになったとし、本件都条例の規制を受けること自体本件土地に民法570条にいう隠れた瑕疵があるというべきである旨主張し(訴状、原告平成19年2月21日付け準備書面)、(2)本件売買契約締結当時、本件土地はふっ素等で汚染されていたが、本件都条例はいまだ制定されていなかったこと、その後本件都条例が施行され、控訴人が本件土地を公園用地として使用するについて本件都条例117条1項、同条3項及び4項により本件土地の土壌汚染調査及び汚染の拡散防止措置を行わなければならないという新たな規制を受けるに至ったこと、本件都条例により本件土地について上記のような規制を受けること自体が本件土地に瑕疵があったというべきであること、本件土地に民法570条にいう隠れた瑕疵があると主張する根拠は、ふっ素等によって本件土地の土壌が汚染されていること自体を主張するものではなく、本件都条例によって定められた土壌汚染調査を行った結果、汚染が認められた場合には、汚染の拡散防止措置を執らなければならず、これを行わずには本件土地を公園用地として改変することができないという新たな規制を受けるに至ったのであり、そのこと自体が本件土地に新たに瑕疵があると本件都条例により公的に確認されたことを示すものである(本件都条例により隠れた瑕疵として公的に顕現化された)と主張するものであること、以上のとおり主張し(原告平成19年4月11日付け準備書面)、(3)さらに、本件売買契約締結当時本件土地の土壌がふっ素等によって汚染されていたことは疑いのない事実であるが、当時本件都条例が施行されておらず、控訴人は上記土壌汚染が本件土地の使用に影響する瑕疵と考えることができなかったのであるから、本件都条例が制定、施行され、工事費用の負担が生じたことで、売主の瑕疵担保責任が発生することとなったと主張していた(原告平成19年5月30日付け準備書面)。
 これによれば、控訴人は、原審において、法的構成としては、文言上、本件土地に民法570条にいう隠れた瑕疵があると主張する根拠として、ふっ素等によって本件土地の土壌が汚染されていること自体を主張するものではなく、本件都条例によって定められた土壌汚染調査を行った結果、汚染が認められた場合には、汚染の拡散防止措置を執らなければならず、これを行わずには本件土地を公園用地として改変することができないという新たな規制を受けるに至ったことをもって、本件土地に民法570条にいう隠れた瑕疵があると主張していたものといわざるを得ないが、他方、控訴人の原審における主張の全趣旨にかんがみれば、控訴人は、〈1〉本件売買契約締結当時本件土地の土壌中にふっ素が(大量に)存在していたこと、〈2〉その後本件都条例が施行され、土壌汚染調査により、本件土地の土壌がふっ素等の有害物質で本件都条例で定められた土壌汚染処理基準を遙かに超えて汚染されていることが明らかになったため、本件都条例により、控訴人が本件土地を公園として使用することは本件土地の改変となり、これに伴う汚染拡散防止措置を必要とすることになったこと、〈3〉そのこと自体が本件土地に新たに瑕疵があると本件都条例により公的に確認されたことを示すものであることを主張していたのであり、上記〈1〉が上記〈2〉の不可欠の前提であることは客観的に明らかであったから、控訴人は、本件請求の根拠として、上記〈1〉及び〈2〉を主張していたものというべきである。控訴人は、本来ならば、法的構成としても、上記〈1〉及び〈2〉を根拠に、本件土地に民法570条にいう隠れた瑕疵があるというべきであると明示的に主張すべきであったのであり、明示的にそのように主張していれば、原審においても、控訴人が上記〈1〉と切り離して上記〈2〉だけを主張しているものと誤解されることはなかったというべきである。したがって、控訴人に法的構成における誤りがあったことは否定し難いが、その誤った法的構成においても、上記〈1〉が事実主張としては不可欠の前提であることは動かし難いから、控訴人は、原審においても、本件請求の根拠として、上記〈1〉及び〈2〉を主張していたものというべきである。
 控訴人は、当審において、本件売買契約締約当時本件土地の土壌中にふっ素が(大量に)存在しており、土壌汚染が生じていたのであり、このことが本件土地の隠れた瑕疵であるというべきであって、この瑕疵が本件都条例の制定、施行により顕現化された旨の主張を明示的にするに至ったが、控訴人の当審における上記主張は、本件請求の根拠として上記〈1〉及び〈2〉を主張するものであり、原審における控訴人の主張の全趣旨を変更するものではなく、法的構成における誤りを正したにすぎないものというべきである。
 以上によれば、控訴人が当審において上記のとおり主張して法的構成における誤りを正したことは、控訴人が時機に後れて攻撃方法を提出したことには当たらないから、民事訴訟法157条に基づく却下の決定を求める被控訴人の申立ては理由がないというべきである。
2 認定事実
 前記引用に係る原判決摘示の争いのない事実等に証拠(甲3の1、3の2、4の1から4の5まで、5の1から5の4まで、6、7、9、15、25、26、32、35、36、37の1、37の2、38、39、45、47、50から52まで、54から56まで、58、60から71まで、72の2、乙5、8、9、19、20、22、25)を併せて考えれば、次の事実を認めることができる。
 (1) 本件売買契約の締結
 控訴人は、平成3年3月15日、被控訴人との間で、代金23億3572万6120円で本件土地を被控訴人から買い受ける旨の本件売買契約を締結した。
 控訴人が本件売買契約を締結したのは、平成3年当時、控訴人が、足立区から、東京都が進めていた東京都荒川区日暮里と東京都足立区舎人地区を結ぶ新交通システム日暮里・舎人線(仮称)の開設に不可欠な用地の被買収者に対して提供する代替地の取得を要請されていたためであった。
 本件売買契約締結当時、客観的には、目的物である本件土地の土壌中にふっ素が含まれていたが、当時の取引観念上は土壌中にふっ素が含まれていることが有害であるとは認識されておらず、控訴人の担当者もふっ素が有害であると認識していなかった。
 (2) 本件土地の利用状況
 本件土地は、昭和59年4月1日までは株式会社アスニーが、同社が被控訴人に吸収合併された同日以降は被控訴人が、主に工業用フッ化水素酸を製造するための工場用地として利用していた。
 (3) 土壌調査
 控訴人は、本件売買契約に先立ち、株式会社環境技術研究所に本件土地の土壌調査を委託した。
 平成3年2月20日に行われた土壌調査(以下「平成3年調査」という。)の結果、本件売買契約締結当時、本件土地の表層土に、東京都の定める公用地取得に係る重金属等による汚染土壌の処理基準値を超える量の鉛、砒素及びカドミウムが含有されている部分が存することが判明した。
 (4) 本件都条例の施行等(顕著な事実)
  ア 東京都は、平成12年12月22日、東京都公害防止条例の全部を改正し、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号)と題名を改めてこの条例を公布し、平成13年4月1日本件都条例を施行した。本件都条例117条については、同年10月1日に施行された。
  イ 本件都条例2条12号は、「有害物質」の意義について、「人の健康に障害を及ぼす物質のうち水質又は土壌を汚染する原因となる物質で、別表第4に掲げるものをいう。」と定義し、別表第4には、鉛、砒素、カドミウム、ふっ素及びPCB等を含む26種類の有害物質が掲げられている。ふっ素が加えられたのは平成15年2月15日である。
  ウ 本件都条例117条は、原判決別紙条文目録記載のとおり、土地の改変時における改変者の義務について規定している。
 (5) 平成13年3月28日、環境基本法16条に基づく平成3年8月環境省告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」の一部が平成13年3月28日付け環境省告示第16号をもって改正され、別表の項目にふっ素が加えられ、ふっ素の環境上の条件は「検液1Lにつき0.8mg以下であること」と定められ、これが環境基準であるとされた。この改正の眼目は、これをふっ素についていえば、ふっ素による土壌の汚染に適切に対処しようとするものである。
 (6) 平成14年5月29日土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)が公布され、平成15年2月15日同法が施行された。同法は、土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を定めること等により、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護することを目的とし(同法1条)、鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものを「特定有害物質」としている(同法2条1項)。これを受けて、土壌汚染対策法施行令1条21号は、「ふっ素及びその化合物」を、土壌汚染対策法2条1項の政令で定める物質としている。
 (7) 代替地としての提供
 東京都足立区は、平成14年4月、新交通システム日暮里・舎人線(仮称)の江北駅(仮称)駅前広場予定地を、甲野太郎から買収することになったところ、同人及び同土地上に存する建物を同人から賃借して運送業を営む株式会社扇運輸(以下、甲野太郎と併せて「甲野ら」という。)から、代替地の提供を求められた。控訴人は、東京都足立区の要請により、本件土地を甲野らに対する被買収土地の代替地として提供するための協議を行った。
 (8) 控訴人は、本件土地につき土壌汚染対策工事請負契約を締結するに先立ち、平成17年8月4日、本件都条例117条1項に基づき、本件土地における過去の有害物質の取扱事業場の設置状況等所定の事項について調査するため、清水建設株式会社との間で契約金額5万2500円で委託契約を締結し、清水建設株式会社に本件土地の土壌汚染調査に係る地歴等調査を行わせ、同年10月19日、同社に対し、上記5万2500円を支払った。
 (9) 控訴人は、その結果を受け、本件都条例117条2項に基づき、東京都知事に対し、本件土地の土壌の汚染状況を調査し、その結果を報告するため、帝人エコ・サイエンス株式会社との間で、平成17年9月27日付けで契約金額945万円で、新田1丁目、日暮里・舎人線関連用地土壌汚染調査委託契約を締結し、同年10月4日付けで上記原契約の変更契約を締結すると共に、契約金額252万円とする追加調査委託契約を締結した。
 帝人エコ・サイエンス株式会社は、上記各契約に基づき、本件土地について土壌汚染調査を実施し、控訴人に対し、同年11月2日付け「新田1丁目、日暮里・舎人線関連用地の土壌汚染調査報告書」(甲4の4)を提出した。上記報告書によれば、試料を採取した40地点のすべての地点でふっ素が検出され、その量は、40地点のすべての地点で溶出量基準値を超え(最高で基準値の1200倍)、39地点で含有量基準値を超え(最高で基準値の23倍)、ふっ素による地下水汚染が確認されたというものであった。上記報告書は、そのため、敷地境界を囲む少なくとも四方位4箇所に最初の帯水層(恒常的に地下水が存在する宙水層又は第一帯水層)の底部までを設置深度とする観測井を設け、速やかに地下水の水質測定(モニタリング)を開始し、その結果を東京都に定期的に報告する必要があり、また、ふっ素等の特定有害物質による汚染土壌が存在するため、汚染の除去等の拡散防止措置を実施する必要があることなどを指摘した。
 このように、本件土地について土壌汚染調査が行われた結果、本件土地がふっ素によって人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて汚染されていることが判明した。
 控訴人は、平成17年12月22日、同社に対し、費用及び報酬として合計1197万円を支払った。
 (10) 上記調査の結果、地下5mの地点でも汚染が確認され、更に深い深度でのボーリング調査を行って汚染深度を把握する必要が生じたため、控訴人は、同年11月3日、帝人エコ・サイエンス株式会社との間で、契約金額1869万円で土壌汚染調査の追加調査を行うことを委託する委託契約を締結し、平成18年3月31日、同社との間で、契約金額を1848万5250円に変更することなどを内容とする変更契約を締結し、同社に本件土地について土壌汚染の追加調査を行わせ、同年6月15日、同社に対し、費用及び報酬として1848万5250円を支払った。
 (11) 以上により、控訴人は、本件土地について土壌汚染対策工事を実施する必要が生じ、まず、平成18年9月8日、パシフィックコンサルタンツ株式会社との間で、契約金額519万7500円で上記対策工事発注仕様書の作成業務を委託する旨の委託契約を締結し、同社に上記工事の見積りをさせ、平成18年11月5日以前に、同社に対し上記契約金額を支払った。
 (12) 控訴人は、本件土地について土壌汚染の除去等の拡散防止措置を実施するために、平成18年12月26日、清水・竹内・太和建設共同企業体代表者清水建設株式会社との間で、契約金額4億2525万円で、新田1丁目、日暮里・舎人線関連用地の土壌汚染対策工事請負契約を締結し、同額の債務を負担した。
3 売買契約の目的物である土地に含まれていた物質が当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが売買契約後に有害であると社会的に認知された場合と民法570条にいう隠れた瑕疵
 (1) 居住その他の土地の通常の利用をすることを目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に人の生命、身体、健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは、上記売買契約の目的に照らし、売買契約の目的物である土地が通常備えるべき品質、性能に当たるというべきである。したがって、上記売買契約の目的物である土地の土壌に実際には有害物質が含まれていたが、売買契約締結当時は取引上相当な注意を払っても発見することができず、その後売買契約の目的物である土地の土壌に売買契約締結当時から当該有害物質が人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことが判明した場合(以下「〈1〉の場合」という。)には、目的物である土地における上記有害物質の存在は民法570条にいう隠れた瑕疵に当たると解するのが相当である。
 ところで、居住その他の土地の通常の利用をすることを目的として締結された売買契約の目的物である土地の土壌に含まれていた物質が当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが、売買契約後に有害であると社会的に認識された場合において、売買契約の目的物である土地の土壌に当該物質が人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことが判明したとき(以下「〈2〉の場合」という。)にも、売買契約の目的物である土地の土壌に人の生命、身体、健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことという、上記売買契約の目的物である土地が通常備えるべき品質、性能を欠くというべきであり、この点において〈1〉の場合と差はない。また、〈2〉の場合には、買主にとっては、売買契約締結当時取引上相当な注意を払っても売買契約の目的物である土地に含まれていた物質が有害であると認識することはできなかったというべきであって、この点においても〈1〉の場合と差はない。さらに、売買契約締結当時、売買契約の目的物である土地に含まれている物質の有害性が社会的に認識されていたかどうかは、当事者が売買契約を締結するに当たって前提となる事実をどのように認識していたか、また、認識可能であったかに包含される問題であって、事実の範疇に包含される問題であると考えられる。そして、このことは、上記売買契約の目的物である土地に含まれていた物質が当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが売買契約後に有害であると社会的に認識されたために、当該物質を土壌を汚染するものとしてこれを規制する法令が制定されるに至った場合において、売買契約の目的物である土地の土壌に当該物質が人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことが判明したとき(以下「〈3〉の場合」という。)にも当てはまるのであり、売買契約締結当時土壌を汚染するものとして当該物質を規制し、汚染の除去等の措置を定める法令の規定が存在しなかったことを理由に、売買契約締結当時は目的物である土地の土壌中に当該物質が含まれていても、上記売買契約は適法であったとして、〈3〉の場合に、民法570条にいう隠れた瑕疵が存在することを否定することは、できないものというべきである。民法570条に基づく売主の瑕疵担保責任は、売買契約の当事者間の公平と取引の信用を保護するために特に法定されたものであり、買主が売主に過失その他の帰責事由があることを理由として発生するものではなく、売買契約の当事者双方が予期しなかったような売買の目的物の性能、品質に欠ける点があるという事態が生じたときに、その負担を売主に負わせることとする制度である。このことにかんがみると、民法570条の適用上、〈1〉の場合と〈2〉の場合及び〈3〉の場合とで区別することは、相当ではないというべきである。
 以上によれば、居住その他の土地の通常の利用をすることを目的として締結された売買契約の目的物である土地の土壌に人の生命、身体、健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていたが、当時の取引観念上はその有害性が認識されていなかった場合において、その後、当該物質が土地の土壌に上記の限度を超えて含まれることは有害であることが社会的に認識されるに至ったときには、上記売買契約の目的物である土地の土壌に当該有害物質が上記の限度を超えて含まれていたことは、民法570条にいう隠れた瑕疵に当たると解するのが相当である。そして、上記の場合において、土壌を汚染するものとして当該物質を規制し、汚染の除去等の措置を定める法令の規定が定められ、買主が当該規定に従い、汚染の除去等の措置に必要な費用を負担したときには、買主は売主に対し、民法570条に基づき、上記の費用相当額の損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。
 被控訴人は、民法570条にいう隠れた瑕疵とは、売買の目的物が通常有すべき性能、品質を欠いていた場合又は契約当事者が契約上予定していた性質を欠いていた場合をいい、瑕疵の有無の判断に当たっては、売買契約締結当時の知見、法令等を基礎として判断すべきである旨主張する。しかしながら、民法570条に基づく売主の瑕疵担保責任は、上記のとおり、売主に過失その他の帰責事由があることを理由として発生するものではなく、売買契約当事者間の公平と取引の信用を保護するために特に法定されたものであるから、売買契約締結当時の知見、法令等が瑕疵の有無の判断を決定するものであるとはいえない。したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
 (2) 前記認定事実によれば、本件売買契約締結当時、目的物である本件土地の土壌中にふっ素が含まれていたが、当時の取引観念上は土壌中にふっ素が含まれていることが有害であるとは認識されておらず、控訴人の担当者もふっ素が有害であると認識していなかったこと、しかし、本件売買契約締結後、平成13年3月28日、環境基本法16条に基づく平成3年8月環境省告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」の一部が平成13年3月28日付け環境省告示第16号をもって改正され、別表の項目にふっ素が加えられ、ふっ素の環境上の条件は「検液1Lにつき0.8mg以下であること」と定められ、これが環境基準であるとされたこと、この改正の眼目は、これをふっ素についていえば、ふっ素による土壌の汚染に適切に対処しようとするものであること、東京都は、上記の改正に先立ち、平成12年12月22日、東京都公害防止条例の全部を改正し、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号)と題名を改めてこの条例を公布し、平成13年4月1日本件都条例を施行したこと、本件都条例2条12号は、「有害物質」の意義について、「人の健康に障害を及ぼす物質のうち水質又は土壌を汚染する原因となる物質で、別表第4に掲げるものをいう。」と定義し、別表第4には、鉛、砒素、カドミウム、ふっ素及びPCB等を含む26種類の有害物質が掲げられていること(ふっ素が加えられたのは平成15年2月15日である。)、平成14年5月29日土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)が公布され、平成15年2月15日同法が施行されたこと、同法は、土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を定めること等により、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護することを目的とし(同法1条)、鉛、砒素、トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものを「特定有害物質」としていること(同法2条1項)、これを受けて、土壌汚染対策法施行令1条21号は、「ふっ素及びその化合物」を、土壌汚染対策法2条1項の政令で定める物質としていること、控訴人は、本件都条例117条2項に基づき、東京都知事に対し、本件土地の土壌の汚染状況を調査し、その結果を報告するため、帝人エコ・サイエンス株式会社との間で、平成17年9月27日付けで新田1丁目、日暮里・舎人線関連用地土壌汚染調査委託契約(甲4の1)を締結し、同年10月4日付けで上記原契約の変更契約(甲4の2)及び追加委託契約(甲4の3)を締結したこと、帝人エコ・サイエンス株式会社は、上記各契約に基づき、本件土地について土壌汚染調査を実施し、控訴人に対し、同年11月2日付け「新田1丁目、日暮里・舎人線関連用地の土壌汚染調査報告書」(甲4の4)を提出したこと、上記報告書によれば、試料を採取した40地点のすべての地点でふっ素が検出され、その量は、40地点のすべての地点で溶出量基準値を超え(最高で基準値の1200倍)、39地点で含有量基準値を超え(最高で基準値の23倍)、ふっ素による地下水汚染が確認されたため、敷地境界を囲む少なくとも四方位4箇所に最初の帯水層(恒常的に地下水が存在する宙水層又は第一帯水層)の底部までを設置深度とする観測井を設け、速やかに地下水の水質測定(モニタリング)を開始し、その結果を東京都に定期的に報告する必要があり、また、ふっ素等の特定有害物質による汚染土壌が存在するため、汚染の除去等の拡散防止措置を実施する必要があることなどが明らかになったこと、このように、本件土地について土壌汚染調査が行われた結果、本件土地がふっ素によって人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて汚染されていることが判明したこと、以上の事実を認めることができる。
 上記認定事実によれば、本件売買契約当時、その目的物である本件土地の土壌中にふっ素が含まれていたが、当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったところ、本件売買契約後の平成13年3月28日にふっ素が有害であると社会的に認識されたために、当該物質を土壌を汚染するものとしてこれを規制する法規が制定されるに至ったものということができるのであり、平成17年11月2日ころ、本件売買契約の目的物である本件土地の土壌中にふっ素が人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことが判明したものということができる。
 以上のとおり、本件売買契約の目的物である本件土地の土壌中に上記のとおりふっ素が含まれていたことは、民法570条にいう隠れた瑕疵に当たるというべきである。したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件都条例に基づき、汚染の除去等の拡散防止措置を実施するために負担した必要な費用相当額の損害賠償請求をすることができる。
4 損害について
 前記認定事実によれば、〈1〉控訴人は、本件土地につき土壌汚染対策工事請負契約を締結するに先立ち、平成17年8月4日、本件都条例117条1項に基づき、本件土地における過去の有害物質の取扱事業場の設置状況等所定の事項について調査するため、清水建設株式会社との間で契約金額5万2500円で委託契約を締結し、清水建設株式会社に本件土地の土壌汚染調査に係る地歴等調査を行わせ、同社に対し、上記5万2500円を支払ったこと、〈2〉控訴人は、その結果を受け、同年9月27日、本件都条例117条2項に基づき、本件土地について土壌汚染調査を行うため、帝人エコ・サイエンス株式会社との間で、契約金額945万円で委託契約を締結し、同年10月4日、同社との間で変更契約を締結すると共に、契約金額252万円で追加委託契約を締結し、同社に本件土地について土壌汚染調査を行わせ、同社に対し、費用及び報酬として合計1197万円を支払ったこと、〈3〉上記〈2〉の調査の結果、地下5mの地点でも汚染が確認され、更に深い深度でのボーリング調査を行って汚染深度を把握する必要が生じたため、控訴人は、同年11月3日、帝人エコ・サイエンス株式会社との間で、契約金額1869万円で土壌汚染調査の追加調査を行うことを委託する委託契約を締結し、平成18年3月31日、同社との間で、契約金額を1848万5250円に変更することなどを内容とする変更契約を締結し、同社に本件土地について土壌汚染の追加調査を行わせ、同社に対し、費用及び報酬として1848万5250円を支払ったこと、〈4〉以上により、控訴人は、本件土地について土壌汚染対策工事を実施する必要が生じ、まず、平成18年9月8日、パシフィックコンサルタンツ株式会社との間で、契約金額519万7500円で上記対策工事発注仕様書の作成業務を委託する旨の委託契約を締結し、同社に上記工事の見積りをさせ、同社に対し上記契約金額を支払ったこと、〈5〉控訴人は、本件土地について土壌汚染の除去等の拡散防止措置を実施するために、平成18年12月26日、清水・竹内・太和建設共同企業体代表者清水建設株式会社との間で、契約金額4億2525万円で、新田1丁目、日暮里・舎人線関連用地の土壌汚染対策工事請負契約を締結し、同額の債務を負担したことが認められる。上記〈1〉の契約の締結及び金銭の支出並びに上記〈2〉の各契約の締結及び金銭の支出は、本件都条例117条1項及び同条2項によりされたものであり、本件売買契約の目的物である本件土地の土壌中にふっ素が人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたという隠れた瑕疵が存在していたこととの間に相当因果関係はないというべきであるが、他方、上記〈3〉の契約の締結及び金銭の支出、上記〈4〉の契約の締結及び金銭の支出並びに上記〈5〉の契約の締結及び債務の負担は、本件土地の上記の隠れた瑕疵によるものであり、上記の隠れた瑕疵の存在との間に相当因果関係が存在するというべきである。したがって、控訴人は、被控訴人に対し、上記〈3〉から〈5〉までの支出額及び債務負担額合計4億4893万2750円の損害賠償請求をすることができることになる。控訴人は、上記損害額元本に対する本件訴状送達の日の翌日である平成18年11月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払も請求するところ、上記〈5〉のとおり控訴人が負担した債務については、控訴人が支払った前払金の額は証拠上明らかでないが、甲第9号証により、控訴人は、上記債務の全額について、遅くとも平成20年7月8日(約定の工期である同年3月31日から40日経過した同年5月10日の後である本件口頭弁論終結の日)までには支払うべき義務を負ったものと認めることができるから、4億2525万円に対する遅延損害金の起算日は平成20年7月8日とすべきである。
 以上によれば、控訴人の請求は、4億4893万2750円並びにうち2368万2750円に対する本件訴状送達の日の翌日である平成18年11月5日から、及びうち4億2525万円に対する平成20年7月8日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき理由があるから、上記の限度でこれを認容すべきであるが、控訴人の請求中その余の部分については理由がないから、これを棄却すべきである。
5 被控訴人の消滅時効の抗弁について
 瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である(最高裁平成10年(オ)第773号同13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1311頁参照)。消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)ところ、上記第三小法廷判決は、通常の場合には、買主が、売買の目的物の引渡しを受けた後、瑕疵を発見するについて法律上の障害はなく、合理的に行動する買主を想定してその者が取引上必要とされる注意を払えば売買の目的物の瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することが可能であることを前提にしているのであり(上記第三小法廷判決参照)、上記第三小法廷判決の法理は、合理的に行動する買主を想定してその者が取引上必要とされる注意を払ったとしても、取引観念上瑕疵が存在するものとは評価されなかったために、売買の目的物の引渡しを受けた時から損害賠償請求権を行使することができない特段の事情が存在する場合にまで及ぶものではない。
 これを本件についてみるに、本件売買契約当時、その目的物である本件土地の土壌中にふっ素が含まれていたが、当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったこと、本件売買契約後の平成13年3月28日に土壌中のふっ素が有害であると社会的に認識されたために、当該物質を土壌を汚染するものとしてこれを規制する法令が制定されるに至ったものということができることは、前記のとおりである。これによれば、控訴人が本件売買契約の目的物である本件土地の引渡しを受けた時には、本件土地に取引観念上瑕疵が存在するものとは評価されなかったために、控訴人が本件売買契約の目的物である本件土地の引渡しを受けた時から損害賠償請求権を行使することができない特段の事情が存在したというべきであって、控訴人が本件土地に隠れた瑕疵があるとして民法570条に基づく損害賠償請求権を行使することができる時は、控訴人が本件土地の引渡しを受けた時ではなく、土壌中のふっ素が有害であると社会的に認識されるに至った平成13年3月28日であるというべきである。そして、控訴人は、平成17年11月2日ころ、本件売買契約の目的物である本件土地の土壌中にふっ素が人の生命、身体、健康を損なう危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことが判明したことを受け、平成18年10月27日に本件訴訟を提起して上記損害賠償請求権を行使するに至ったのであるから、平成13年3月28日から進行する消滅時効の時効期間が経過する前に、上記損害賠償請求権を行使したものということができる。したがって、被控訴人の消滅時効の抗弁は理由がない。
第4 結論
 以上の認定及び判断の結果によると、控訴人の請求は、4億4893万2750円並びにうち2368万2750円に対する本件訴状送達の日の翌日である平成18年11月5日から、及びうち4億2525万円に対する平成20年7月8日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき理由があるから、上記の限度でこれを認容すべきであるが、控訴人の請求中その余の部分については理由がないから、これを棄却すべきである。そうすると、当裁判所の上記判断と異なり、控訴人の請求をすべて棄却した原判決は一部不当であるから、これを上記の趣旨に変更することとして、主文のとおり判決する。
第21民事部  (裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 髙世三郎 裁判官 西口元)

東京地方裁判所 平成18年(ワ)第23983号 平成19年07月25日


平成19年(ネ)第4169号

 本件は、原告が、被告から買い受けた土地の土壌が有害物質により汚染されていたため、その後施行された東京都条例の規制に従い、汚染拡散防止措置を行わなければならなくなったこと等が民法570条にいう「瑕疵」に当たると主張して、被告に対し、同条の瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、同措置に要する費用等合計4億6095万5250円の支払を求める事案である。

  東京地方裁判所 平成18年(ワ)第23983号 平成19年07月25日 主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、4億6095万5250円及びこれに対する平成18年11月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告から買い受けた土地の土壌が有害物質により汚染されていたため、その後施行された東京都条例の規制に従い、汚染拡散防止措置を行わなければならなくなったこと等が民法570条にいう「瑕疵」に当たると主張して、被告に対し、同条の瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、同措置に要する費用等合計4億6095万5250円の支払を求める事案である。
1 争いのない事実等(証拠等により容易に認められる事実は、末尾にそれを掲記した。)
 (1) 当事者
  ア 原告は、公共用地又は公用地等の取得、管理及び処分等を行うことにより、東京都足立区の秩序ある整備と足立区民福祉の増進に寄与することを目的とする法人である(弁論の全趣旨)。
  イ 被告は、旭硝子株式会社の子会社で、主にふっ素機能商品の製作販売を業とする株式会社である。
 (2) 土地売買契約の締結
 原告は、平成3年3月15日、被告から、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を、代金23億3572万6120円で買い受けた(以下「本件売買契約」という。)。
 原告が本件売買契約を締結したのは、平成3年当時、原告が、足立区から、東京都が進めていた東京都荒川区日暮里と東京都足立区舎人地区を結ぶ日暮里・舎人線(仮称)の開設に不可欠な用地の被買収者に対して提供する代替地の取得を要請されていたためであった(弁論の全趣旨)。
 (3) 本件土地の利用状況
 本件土地は、昭和59年4月1日までは株式会社アスニーが、同社が被告に吸収合併された同日以降は被告が、主に工業用ふっ酸を製造するための工場用地として利用していた(甲8及び弁論の全趣旨)。
 (4) 土壌調査
 原告は、本件売買契約に先立ち、本件土地の土壌調査を、株式会社環境技術研究所に委託した。
 平成3年2月20日に行われた土壌調査の結果、本件売買契約締結時ころには、本件土地の表層土に、東京都の定める公用地取得にかかる重金属等による汚染土壌の処理基準値を超える量の鉛、砒素及びカドミウムが含有されている部分が存することが判明した(以下「平成3年調査」という。)。
 (以上、甲2及び弁論の全趣旨)
 (5) 本件都条例の施行等(顕著な事実)
  ア 平成12年12月22日、東京都条例第215号「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(以下「本件都条例」という。)が公布され、同都条例は、平成13年4月1日に施行された。
  イ 本件都条例2条12号は、「有害物質」を、「人の健康に障害を及ぼす物質のうち水質又は土壌を汚染する原因となる物質で、別表第四に掲げるもの」と定義し、別表第四には、鉛、砒素、カドミウム、ふっ素及びポリ塩化ビフェニル(以下「PCB」という。)等を含む26種類の有害物質が掲げられている。
  ウ また、本件都条例117条(平成13年10月1日施行)は、別紙条文目録記載のとおり、土地の改変時における改変者の義務について規定している。
 (6) 代替地としての提供
 東京都足立区は、平成14年4月、日暮里・舎人線(仮称)の江北駅(仮称)駅前広場予定地を、甲野太郎から買収することになったところ、同人及び同土地上に存する建物を同人から賃借して運送業を営む株式会社扇運輸(以下、甲野太郎と併せて「甲野ら」という。)から、代替地の提供を求められた。原告は、東京都足立区の要請により、本件土地を甲野らに対する被買収土地の代替地として提供するための協議を行った。(以上、弁論の全趣旨)
 (7) 再度の土壌調査
 原告は、平成3年調査の結果、本件土地の土壌が、鉛、砒素及びカドミウムによって汚染されていることが判明していたことから、本件土地を甲野らに対して代替地として提供するに当たり、他の有害物質による汚染の有無についても調査することとし、土壌汚染調査を帝人エコ・サイエンス株式会社に委託した。
 平成17年10月に行われた土壌汚染調査の結果、本件土地の表層土に、本件都条例115条2項及び同施行規則56条が定める汚染土壌処理基準値を超える量の鉛、砒素及びカドミウムの外、ふっ素及びPCBが含有されている部分が存することが判明した。(以上、甲4の1ないし4、甲5の1ないし4及び弁論の全趣旨)
 (8) その後の利用状況
 本件土地の土壌汚染の事実を知った甲野らは、平成18年7月5日、本件土地を被買収土地の代替地として受領することを拒否した。
 そこで、原告は、本件土地を、地域住民の福祉目的のために、汚染された土壌の掘削除去及び封じ込めを行った後で、公園用地として利用することを決定した。(以上、弁論の全趣旨)
 原告は、同年12月26日、清水・竹内・太和建設共同企業体との間で、本件土地の土壌汚染対策工事の請負契約を締結した(甲9)。
2 争点
 (1) 本件都条例による規制が民法570条にいう「瑕疵」に当たるか否か
 (2) 損害の有無及びその額
 (3) 消滅時効の成否
3 争点に関する当事者の主張
 (1) 争点(1)(本件都条例による規制が民法570条にいう「瑕疵」に当たるか否か)について
 (原告の主張)
  ア 原告は、甲野らに対し、本件売買契約の目的物である本件土地を、被買収用地の代替地として提供するに際し、有害物質による土壌汚染調査を行った。その結果、本件土地の土壌が、有害物質である鉛、砒素、カドミウム、ふっ素及びPCBにより汚染されていることが判明し、甲野らが本件土地を被買収土地の代替地としての受領を拒絶したので、原告は、本件土地を公園として利用することを決定した。
  そして、本件土地を公園として利用することは、本件都条例117条1項にいう「土地の改変」に当たるため、原告は、同条1項、3項及び4項に基づき、本件土地の土壌汚染調査及び汚染の拡散防止措置を行わなければならなくなった。
  すなわち、原告は、本件土地の利用について、本件都条例により、その定める義務を履行しなければ、公園用地に改変できないという制限を受けた。
  したがって、本件売買契約の目的物である本件土地には、「瑕疵」がある。
  なお、原告は、本件土地の土壌が汚染されていることが「瑕疵」に当たるとして主張するものではない。
  イ 被告の主張アに対する反論
  被告は、本件売買契約締結時に存在していなかった本件都条例による規制を「瑕疵」ということはできない旨主張する。
  しかしながら、売買契約締結時において、買主が欠点を確認した場合でも、その欠点が買主にとって物の利用に影響する瑕疵と考えることができなかったときは、「隠れた瑕疵」に当たるのであるから、法令等に基づく制限は、売買契約締結時に存在しなければならないものではない。
  本件においては、本件売買契約締結時において、本件土地の土壌が、鉛、砒素、カドミウム、ふっ素及びPCBによって汚染されていたが、当時、本件都条例が施行されていなかったため、原告は、本件土地の土壌汚染が本件土地の利用に影響する瑕疵と考えることができなかったものである。
  すなわち、本件都条例が制定され、原告に工事費用の負担が生じたことにより、「隠れた瑕疵」が公的に顕現化したものである。
  したがって、本件売買契約の目的物である本件土地には、「隠れた瑕疵」がある。
 (被告の主張)
  ア 「瑕疵」とは、原始的瑕疵、すなわち、売買契約締結時に存在する瑕疵をいうから、「瑕疵」が存在するかどうかの判断は、売買契約締結時においてされるべきである。
  したがって、本件売買契約締結時に存在していなかった本件都条例による規制を「瑕疵」ということはできない。
  イ 原告の主張に対する反論
  前記原告の主張イは、売買契約締結時において目的物に「瑕疵」があることを前提に、一見「瑕疵」が隠れていないようでも、「瑕疵」だと認識できる程度に顕われてはいなかった「瑕疵」について、「隠れた」ものと判断してよいか否かに関するものである。
  したがって、売買契約締結後に、目的物に後発的に生じた「瑕疵」について、売主の瑕疵担保責任を認めてよいことにはならない。
 (2) 争点(2)(損害の有無及びその額)について
 (原告の主張)
  ア 原告は、本件都条例117条1項、2項及び4項に従い、本件土地の土壌汚染調査費用として、次のとおり、合計3570万5250円を支払った。
  (ア) 原告は、平成17年8月4日、清水建設株式会社に対し、本件土地の土壌汚染調査に係る地歴等調査を、代金5万2500円(税込)で委託し、同年10月19日、同金員を同社に支払った(甲3の1、2)。
  (イ) 原告は、同年9月27日、帝人エコ・サイエンス株式会社に対し、本件土地の土壌汚染調査を、代金945万円(税込)で委託した(甲4の1、2)。また、原告は、同年10月4日、同社に対し、同調査の追加調査を、代金252万円(税込)で委託した(甲4の3)。
  原告は、同年12月22日、同社に対し、上記委託代金合計1197万円を支払った(甲4の5)。
  (ウ) 原告は、同年11月3日、帝人エコ・サイエンス株式会社に対し、本件土地の土壌汚染調査について、代金1869万円(税込)で委託した(甲5の1)。その後、平成18年3月31日に、同代金額が1848万5250円に変更された(甲5の2)。
  原告は、同年6月15日、同社に対し、同変更後の委託代金を支払った(甲5の4)。
  (エ) 原告は、同年9月8日、パシフィックコンサルタンツ株式会社に対し、本件土地の土壌汚染対策工事発注仕様書の作成業務を、代金519万7500円(税込)で委託した(甲6)。
  イ また、原告は、同各条項に従い、平成17年12月26日、清水・竹内・太和建設共同企業体に対し、本件土地の土壌汚染対策工事を、代金4億2525万円(税込)で発注し、同額の支払義務を負担した。
  ウ したがって、原告は、合計4億6095万5250円の損害を被った。
 (被告の主張)
  原告の主張は争う。
 (3) 争点(3)(消滅時効の成否)について
 (被告の主張)
  仮に、被告が原告に対し瑕疵担保責任に基づく損害賠償義務を負うとしても、同損害賠償請求権は、目的物の引渡しから10年の経過により時効より消滅する。
  そして、被告は、平成4年4月2日、原告に対し、本件売買契約に基づき、目的物である本件土地を引き渡した。
  したがって、平成14年4月2日の経過をもって、同損害賠償請求権は時効消滅したから、被告は、これを援用する。
 (原告の主張)
  消滅時効の進行は、権利の性質上その行使を現実に期待できる状態になければ進行しないとされているところ、原告が、被告から本件売買契約に基づく本件土地の引渡しを受けたときには、本件損害賠償請求権は未だ発生していなかったから、本件土地の引渡時から消滅時効が進行するということはできない。
  本件損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、本件都条例によって本件土地の瑕疵が顕現化された時点、すなわち、本件土地について新たな負担が付された時点又はその負担を原告が実行した時点と解すべきである。
  したがって、本件損害賠償請求権は、時効消滅していない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件都条例による規制が民法570条にいう「瑕疵」に当たるか否か)について
 (1) 売買契約の目的物たる土地が、法令等により利用上の制限を受けることは、売買契約の目的物として通常有すべき品質や性能を欠くものであり、民法570条にいう「瑕疵」に当たり得る。
  しかしながら、瑕疵担保責任の規定が適用されるためには、その前提として、売買契約締結時において、目的物に「瑕疵」が存在することが必要であると解すべきである。
  けだし、同条の瑕疵担保責任は、売買契約の目的物に「隠れた瑕疵」が存在する場合に、買主を保護すべく、売主に責任を負わせるものであり、売買契約締結後に目的物に「瑕疵」が生じた場合にまで、買主を保護して売主に責任を負わせるべき根拠を欠くからである。
  そして、このように解さなければ、売買契約締結後に生じ得る瑕疵について、売主が永久に瑕疵担保責任を潜在的に負うことになるが、これは売主に過大な負担を課するものであり、かえって売買契約当事者間の公平を失する結果となる。
 (2) この点について、原告は、売買契約締結時において、買主が欠点を確認した場合でも、その欠点が買主にとって物の利用に影響する瑕疵と考えることができなかったときは、「隠れた瑕疵」に当たるのであるから、法令等に基づく制限は、売買契約締結時に存在しなければならないものではない旨主張する。
 しかしながら、本件のように、法令等による制限について瑕疵担保責任の規定の適用が問題となる場合において同規定が適用されるためには、売買契約締結時において、法令等により、目的物の利用が制限されていることが必要である。すなわち、売買契約締結時において、現に目的物の利用を制限する法令等が施行され、又は同法令等の施行が確実に予定され、売買契約締結後に実際に施行されることが必要である。
 けだし、売買契約締結時において、目的物の利用を制限する法令等の施行が確実に予定されていない場合においても、売主に瑕疵担保責任を負わせるとすれば、売主に過大な負担を課するものであり、かえって売買契約当事者間の公平を失する結果となるからである。
 (3) 本件についてこれを見るに、原告は、土壌汚染の事実を「瑕疵」と主張するのではなく、本件都条例による規制を「瑕疵」と主張するが、本件都条例は、本件売買契約が締結された平成3年3月には存在せず、10年以上経過した平成13年10月に施行されたものである。
 よって、原告の主張は、売買契約締結時に存在しない瑕疵を「瑕疵」と主張するものであり、主張自体失当である。
 なお、本件においては、売買契約締結時において、目的物の利用が法令等により制限されておらず、これを制限する法令等の施行が確実に予定されるという事情を認めるに足りない。
2 結論
 以上によれば、その余の争点を判断するまでもなく原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 髙部眞規子 裁判官 桑原直子 裁判官 吉村弘樹) (別紙)物件目録<略>

(別紙)条文目録
117条1項 規則で定める面積以上の土地において行う土地の切り盛り、掘削等規則で定める行為(以下「土地の改変」という。)を行う者(以下「土地改変者」という。)は、土壌汚染対策指針に基づき、当該土地の改変を行う土地における過去の有害物質の取扱事業場の設置状況等規則で定める事項について調査し、その結果を知事に届け出なければならない。
117条2項 知事は、前項の調査の結果、当該土地の土壌が汚染され、又は汚染されているおそれがあると認めるときは、土地の改変者に対し、土壌汚染対策指針に基づき、規則で定めるところにより当該土壌の汚染状況を調査し、その結果を報告するよう求めることができる。
117条3項 土地改変者は、前項の調査の結果、当該土地の土壌の有害物質の濃度が汚染土壌処理基準を超えていることが判明したときは、土地の改変に伴う汚染の拡散等を防止するため、土壌汚染対策指針に基づき、規則で定めるところにより、汚染拡散防止計画書を作成し、知事に提出しなければならない。
117条4項 前項により汚染拡散防止計画書の提出をした土地改変者は、前項の汚染拡散防止計画書の内容を誠実に実施し、汚染の拡散の防止の措置が完了したときは、その旨を知事に届け出なければならない。
 

判例研究【3】を学ぶにあたっての基礎知識

売買契約が成立すると、売主は、目的物である財産権を買主に移転する義務を負い、買主は、売主に対価としての代金支払い義務を負うことになるが、その目的物に瑕疵があり、契約によって予定していた目的を達成できない場合には当事者間の公平等を図るべく、民法では一定の要件のもとに売主の担保責任の規定が置かれている。
 さらに、これは瑕疵の様態に応じて、権利の瑕疵と物の瑕疵とに分けられるが、特に、後者にあっては、「瑕疵担保責任」とよばれ、不動産に関する紛争事例として近年、土壌汚染を中心に数多く取り上げられている。
 公共用地の取得にあたっては、この土壌汚染への対応に係る取扱指針等が示されており、契約前により慎重な調査等の実施、土壌汚染の状況を踏まえた適正な損失補償の確保等が求められている。一方、先行取得等を例とした土壌汚染対策施工前に契約がなされたケースにおいては、その目的物である土地にかかる法令等の規制を超える有害物質の存在が後に判明し、取り上げられている瑕疵担保責任の問題が発生し得ることも想定される等、改めて留意すべきものと思われるため、今回その近時の判例を紹介するものである。

民法・関連条文
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第566条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的の場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は契約を解除することができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 略
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
(売主の瑕疵担保責任)
第570条 売買の目的物に隠れた瑕疵があった時は、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

事実の概要

Xは、Yから、その所有地を購入する際に、この土地の土壌を調査したところ、当該土地の表層土に、東京都の定める公用地取得に係る重金属等による汚染土壌の処理基準を超える量の亜鉛、砒素及びカドミウムの含まれている部分が存在することが判明した。
 Xは、このような状況下で、平成3年3月15日にYと約23億円で売買契約を締結した。
  本件土地の土壌には、本件売買契約締結当時からふっ素が含まれていたが、その当時、土壌に含まれるふっ素については、法令に基づく規制の対象となっていなかったし、取引観念上も、ふっ素が土壌に含まれることに起因して、人の健康に係る被害を生じる恐れがあると認識しておらず、Yもそのような認識を有していなかった。
 その後ふっ素についての新環境基準が平成13年3月28日に告示され、Xは、平成3年の上記調査の結果、本件土壌に上記亜鉛、砒素等が包含されていたので、他の有害物質による汚染の有無についても調査したところ(平成17年11月2日ごろ)、当該土地の表層土に、条例・その施行規則が定める汚染土壌処理基準を超える量のふっ素の包含されている部分が存することが判明した。
 このふっ素の包含量は、人の生命・身体・健康を損なう危険があることが明確となり、Xは、本件土地を公園用地として利用することとしていたため、土壌汚染対策工事の実施を余儀なくされた。そこで、Xは、Yに対し、瑕疵担保責任による損害賠償を求めた。

論点 1 瑕疵の存在時期 2 瑕疵担保責任の消滅時効


売買の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、フッ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおされがあると認識されておらず、被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、フッ素が、それが土壌に含まれことに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結ごであったというのである。
 そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、フッ素が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害に生ずるおそれがあると認識されていなかったフッ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれてないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれも超えるフッ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。

【論点】瑕疵担保責任の要件/瑕疵担保責任の消滅時効(排斥期間)

【論点】瑕疵担保責任の要件
①「隠れた瑕疵」の存在----瑕疵の判断時期
②売買の責任期間

1 瑕疵担保責任の要件
  1.  「隠れた瑕疵」の存在
売買の目的物に瑕疵があったことが必要である。ここに「瑕疵」とは、欠点ないし欠陥である。一般的に、瑕疵が存するか否かの判断は、物が通常有すべき品質・性能を欠いているかどうかを基準とする
 また、ここに言う瑕疵は、隠れたものであることを要し、隠れたものであるとは、通常の注意をしていても、瑕疵を発見できないことを意味する。
 なお、ここでは、買主が瑕疵を知らないことにつき、過失がないことが必要と解されている。
本件事案においては、隠れた瑕疵が存すると判断する時期がいつであるかが主要な問題となっている。
  1.  売主の責任期間
 民法566条3項の準用により(民法570条本文)。契約の解除または損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。本事案では、当該土地がYからXに引き渡されてから、10年も経過しているので、瑕疵担保責任は消滅時効にかかっているのではないか、との疑問が生じうる。
 
2 検討
1瑕疵の判断時期
 
2 検討
1瑕疵の判断時期
本件の控訴審判決(東京高判決平成20年9月25日判決)は、当時の取引観念上は、その有害性が認識されていなかった場合において、その後、当該物質が土地の土壌に非との声明・身体・健康を損なう危険のある有害物質であることが社会的に認識されるに至ったときは、民法570条にいう隠れた瑕疵に当たるというのが相当であるとしている。
また、民法570条に基づく売主の瑕疵担保責任は、売主に過失その他の帰責事由があることや理由としてとして発生するものではなく、売買契約者間の公平と取引の信用を保護するために法定されたものであるから、売買契約締結当時の知見、法令等が瑕疵の有無の判断を決定するものであるとはいえない、としている。
 以上から、本判決は、売買契約の目的物である土地の土壌中に上記のとおりふっ素が含まれていたことは、民法570条にいう隠れた瑕疵に当たるというべきである、としている。
本件判決が述べているように、たとえ契約締結時に売主に瑕疵担保責任を、売買の公平と取引の信用・保護の観点から認めようとしても、契約の当時において、予測可能性がないのに、売主に担保責任を認めるには、無理があろう。
 また、目的物が買主の支配下に移転した後に発生した事象まで、売主に責任を負わせるのは酷であろう。
② 売主の責任期間
民法566条3項の準用により(本文570条本文)、契約の解除または損害賠償の請求は、買主が事実を知った時より1年以内にしなければならない。つまり、買主が瑕疵を知った時を起算点として、短期の解決が図られている。
 もっとも、宅地建物取引業法40条は、取引業者が自ら売主となった場合には、目的物の引き渡しから2年以上の特約を認めないとしている。
 なお、売主の1年の責任期間と、売主の責任について10年の一般消滅時効期間(民法167条1項)との関係は、後者は、買主が目的物の引き渡しを受けた時から進行する点で(最高裁平成13年11月27日第3小法廷判決民集55巻6号311頁)、相違がある。
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行するが(民法166条1項)、上記最高裁判決は、通常の場合には、買主が、売買目的の引き渡しを受けた後、瑕疵を発見することについて法律上の障害はなく、合理的に行動する買主を想定してその者が損害賠償請求権を行使することが可能であることを前提としているのであり(上記第三小法廷判決参照)、上記第三小法廷判決の法理は、合理的に行動する買主を想定してその者が取引上必要とされる注意を払っていたとしても、取引観念上 瑕疵が存在するとは評価されなかったために、売買の目的物の引渡しを受けた時から損害賠償請求権を行使することができない特段の事情が存在する場合までに及ぶものではない。
 上告人が本件売買契約の目的物である本件土地の引渡しを受けた時には、本件土地に取引観念上瑕疵が存在するものとは評価されなかったために、上告人が本件売買契約の目的物である本件土地の引き渡しを受けた時から、損害賠償請求権を行使することができない特段の事情が存在するとは評価されなかったために、売買の目的物の引渡しを受けた時から損害賠償請求権を行使することができない特段の事情が存在する場合までに及ぶものではない。
 上告人が本件売買契約の目的物である本件土地の引渡しを受けた時には、本件土地に取引観念上瑕疵が存在するものとは評価されなかったために、上告人が本件売買契約の目的物である本件土地の引き渡しを受けた時から、損害賠償請求権を行使することができない特段の事情が存在したというべきであって、上告人が本件土地に隠れた瑕疵があるとして、民法570条に基づく損害賠償請求を行使することができる時は、控訴人が本件土地の引渡しを受けた時ではなく、土壌中のふっ素が有害であると社会的に認識されるに至った平成13年3月28日であるというべきである。
 以上から上記小法廷の述べるところは正鵠を得ており、指示できるところであろう。